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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)181号 判決

本件実用新案の説明書中「実用新案の説明」の項には、その第一文において、「本案は畳表或は花莚用の藺草位の太さのビニール筒線条又はその他の合成或は化学製品に依る空洞部2を有するパイプ条1に柔軟性を特有させ、この周辺に藺草自然の形状の様な経筋目3を施して適宜に着色し、任意の経糸4にて織成し、この周囲に適宜の縁布5を縫糸6にて縫着してなる敷物であります。」と考案の要領を説明し、第二文において「従来の畳表及び上敷花莚等を屋内の藁床の上に敷きましても、直ちに風化して折れ易くなり変色して上皮が破れて芯が現われ、汚物附着しても容易に掃き取れず、早々に破損するものでありますから、これを屋外の板張り又はコンクリート等の上に敷く時は、極短時日で変色破損してしまい、実に不衛生、不実用の極みのものであります。殊に藺草は僅々一米位しか長さがありませんから、広幅物の継ぎ目のないものは絶対に出来ません。」と従来の天然の藺草等を用いた畳表及び上敷花莚等を敷物として使用する場合の欠陥を挙げた後、第三文において、「これに反して本案は前述のとおりパイプ条1は耐久性のもので空洞部2を有し、これに筋目3を施し適宜着色し、任意の経糸4にて製織し、この周囲に縁布5を縫糸6にて縫着してありますから、屋内の藁床の上はもとより、屋外の板張り或はコンクリート上に敷いても絶対変色しないのみならず、折れ易く芯の現わるること等毫末もなく、従つて汚物等附着せず、且細経筋目を施してありますから歩行上滑る憂は少しもなく殊に筒条でありますから、柔軟性に最も富み、且色沢特有で実に優美高尚最高で如何なる広幅物も自由に製織できます。然してこのビニールは寒暑により伸縮性がありますので、これを防止のため経糸4の不伸縮性絶対のものを用い、又この周囲に縁布5を縫糸6で縫着してありますから、一層伸縮変形を防止します。そのため毫末も伸縮変形しません上に、今一段と優美高尚さを増すものであります。従つて伸縮防止として裏面に布片を貼付けたり或はロール等にて加圧し、伸縮変形を防止するものと全然異り、その必要全然なく、しかも常に空気の流通が良ろしいから黴菌等の繁殖もなく、あらゆる点で、前記藺製品その外の敷物の数々の大欠点を完全に除去して、永年敷込み当時と何等変らざるものであります。」と本件実用新案の有する作用効果を記載し、最後に「登録請求の範囲」の項に、「図面に示す如く、ビニール筒線条又は合成或は化学製品に依る空洞部2を有するパイプ条1の周辺に細筋目3を施したるものを緯条として、任意の経糸4にて織製し、この周囲に適宜の縁布5を縫糸6にて縫着してなる敷物の構造」と記載し、別紙第一記載のような図面を添付してあることを認めることができる。

以上本件実用新案の説明書における「登録請求の範囲」の記載を「実用新案の説明」及び図面の記載と総合して検討すると、天然の藺草等を用いた畳表、上敷花莚等による敷物は、「実用新案の説明」第二文に記載したような数多くの欠陥があるので、本件実用新案はこれらの欠陥を有せず、しかもできるだけこれに近い外観と効用とを有する敷物の構造を目的として考案されたものであつて、

(1) ビニールその他の合成または化学製品によつて作られた、空洞部を有するパイプ条を緯糸とし、任意の経糸を用いて織物を織成し、

(2) 右緯糸としたパイプ条の周辺には細筋目が施してあり、

(3) この織物の周囲には適宜の縁布を縫糸で縫着してあることをその必須の要件としているものと解せられる。

原告は、藺草はその刈取り乾燥当時においては見えるか見えない位の極微細な筋目が現われているが乾燥後は自然に消えてなくなるものであり、本件実用新案における緯糸の細筋目は、「実用新案の説明」に「藺草自然の形状のような」と記載されているように、すでに消えて現われていないものであると主張するが、説明書中「登録請求の範囲」における「パイプ条1の周辺に細筋目3を施したるものを緯条として」の記載を、図面における第一図(緯条拡大図)、「実用新案の説明」第三文における細筋目の営む作用効果の記載及び前記本件実用新案の目的とを併せ考えると、本件実用新案においては、緯糸としたパイプ条に、図面第一図に記載されたような細筋目を施してあることが不可欠の要件をなすものと判断せざるを得ない。(原告提出の検甲第一号証によるも、乾燥した藺草の表面は、決して平滑なものではなく、極めて繊細ではあるが、縦に長く数条の筋目が通つていることが認められる。)

一方本件権利範囲確認審判の対象をなす「イ」号物件が別紙第二記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、同物件における緯糸をなすパイプ条には、細筋目が施してないことは「イ」号説明書及び図面の記載から明らかである。してみれば、本件実用新案の必須要件のうち、少なくとも(2)の「緯糸としたパイプ条の周辺に細筋目」を欠く「イ」号物件は、本件実用新案の権利範囲に属さないものと解せられる。

原告は、仮に本件実用新案に、「藺草自然の形状のようなごく微細な筋目」がかすかにあるとしても、「イ」号物件は、すくなくとも本件実用新案に類似するものであると主張する。しかしながら前記(2)のパイプ条の周辺にたといかすかなりとはいえ、細筋目を施こしてあることが本件実用新案の必須の要件であり、これを欠いた「イ」号物件は前に認定した本件実用新案の目的及び作用、効果を奏するものとは認められないから、パイプの周辺に細筋目を施こしてない「イ」号物件は、本件実用新案に類似するものとは解されない。

なお、原告の提出にかかる甲第十六号証の一ないし七によるも、原告が別に登録を出願したパイプ条の周辺に細筋目の全然ない敷物の考案は、出願前国内に頒布された実用新案公報に記載された技術内容から容易に推考できるものとして、その登録を拒絶されたものであることを認め得るに過ぎないから、これによつても前記判断を左右するには足りない。

してみれば、「イ」号物件は、その他の争点に対する判断をまつまでもなく、すでに以上の点において、本件実用新案の権利範囲に属しないものというべきものであるから、同一の判断に出でた審決は適法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由がない。

〔編註〕 本件に関する図面および説明書は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

(イ)号新妻表図面

<省略>

<省略>

別紙第二

(イ)号新妻表の説明書

(イ)号新妻表の図面第1図は緯糸とするビニール筒条の図、第2図は周囲に縁布4、5を施してある新妻表(上敷用)の図、第3図経糸両切断端に4の縁を施してある図、第4図は経切断両端に4の縁を固着して緯切断面端に5の縁布を6の縫糸にて縫着してある図(畳用)であります。

(イ)号新妻表はビニール筒線条製品に依る空洞部2を有するパイプ条1を緯糸として任意の経糸3にて織製し経切断面端にビニールテープ縁4を固着し又両緯端にも適宜の縁布5縫糸6にて縫着し上敷用として一畳二畳三畳その他の各畳のものに製造して販売して居り、又畳用として経糸切断両端にビニールテープ縁4を固着し、これを畳床に付ける場合に両緯端に必ず適宜の縁布5を縫糸6にて縫着して畳として完成しております。

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